
スマホの画面に広がる風景は、ただただ圧倒的だった。
「光の国」――そう呼ばれるその場所は、名前の通り全てが光で満ちている。建物は柔らかなオレンジ色に発光し、道は輝く白銀のラインで引かれている。空には七色の光の帯が流れ、星々のような小さな光の粒が浮遊していた。地面は透明で、足元からも光が淡く湧き出ている。
スマホの画面を覗き込むたびに、体の中が温かくなるような気がした。この光が、ただの映像ではないことを本能的に感じた。
画面の中で再びあの光の生き物が現れた。先ほど出会った小さな妖精のような存在――彼らは「リュミエット」と名乗った。
「理香さん、ようこそ光の国へ!」
リュミエットは光る手(?)を振りながら、くるくると宙を舞う。小さな体からは、まるで太陽のような温もりが溢れていた。
「ここは私たちが住む場所。光そのものが言葉や思いを運んでくれる世界です。」
「言葉を運ぶ光?」
私は眉をひそめた。確かに美しいけれど、そんなファンタジックな設定を真に受けるほど純粋ではない。
「信じられないのも無理はないわ。でも、きっとすぐ分かる。」
リュミエットがにっこり微笑むと、周囲にいた他の住民たちが次々と現れた。彼らもまた光の体を持ち、それぞれ微妙に異なる色合いを放っている。黄色、青、ピンク、緑――その色彩は不思議と心を落ち着かせる。
「理香さん、最近ちょっとお疲れみたいね?」
突然、紫色の光の住民が話しかけてきた。
「えっ?」
「人間の世界で働きすぎて、毎日が灰色に見えるんじゃない?」
その言葉に、私の胸がギクリとした。この存在たちがどうして私の状況を知っているのか、疑問よりも驚きが先に立つ。
「ちょっとしたヒントで分かるんだよ。私たち、光を通して気持ちを感じ取るのが得意だから。」
紫の住民がそう言いながらふわりと漂う。その動き一つ一つが滑らかで、見ているだけで癒される。
「まあ、難しいことは置いておいて。」今度は青い光の住民が口を開いた。「何か話してみて。最近困っていることとか、気分が落ち込むこととか、何でもいいよ。」
私は戸惑った。スマホの画面の向こう側で話しかけてくる光の住民たち。まるでオンラインカウンセリングを受けている気分だ。でも、その声にはどこか温かさがあり、拒否する気になれなかった。
「そうね……」私は意を決して話し始めた。「最近、仕事がすごくきつくて、周りの期待に応えなきゃって思うと、どんどん自分が嫌になっていくんです。」
住民たちは一斉に「ふむふむ」と頷いた。それが妙に滑稽で、少しだけ笑ってしまった。
「それ、たぶん光を閉じ込めちゃってるせいだよ。」
黄色の住民が楽しげに言った。
「光を……閉じ込める?」
「そう!人間は光ることができるのに、それを無理に抑えちゃうんだよ。誰かの期待とか、他人の目とかでね。」
その言葉は奇妙に心に刺さった。自分の内側にある何かが押し込められているような感覚――確かに、そんな気がしていた。
「じゃあ、どうすればいいの?」
「簡単だよ。」黄色い住民がくるっと回りながら答える。「その光を私たちに見せてごらん。そうすれば、どうすればもっと輝けるか教えてあげる!」
「私の光?」
「ええ、あなたの光は、あなた自身。見つけるのを手伝うわ。」
リュミエットがそう言いながら、手を私に差し出す。いや、正確にはスマホの画面越しに差し出しているように見える。それが不思議と自然で、私はその小さな光の手に触れるように、スマホに指を伸ばした。
次の瞬間、視界が金色に染まる――
ふっと気がつくと、私は光の国の中にいた。まるで画面越しではなく、直接その世界に足を踏み入れたかのようだった。目の前には住民たちが笑顔で浮かび、その背後には信じられないほど美しい光景が広がっている。
「さあ、ここからが本番よ。」
リュミエットの声が耳元で響く。それはまるで、冒険の始まりを告げる鐘の音のようだった。
私は初めて感じた。「この光が、私を癒してくれるかもしれない」と――。
<つづく>
※作品は完全なフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係がありません。
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