
「親友と喧嘩したあの日、私はドット絵の海に迷い込んだ。」
作品説明
親友と大喧嘩したまま夏休みを迎えた中学一年生のミサキ。スマホに届いた「あなたの心を映す海へ」という奇妙な通知に触れた瞬間、彼女はすべてが青いドット絵でできた、不思議な海の世界に迷い込む。そこで出会った光るクラゲ「ルナ」に導かれ、ミサキは自分の心が砕いた「心のコンパス」のカケラを集める旅に出ることに。
これは、現実と幻想が交差するローファンタジー。思い出が形作った島々を巡る冒険は、やがてミサキを自分自身の弱さや嫉妬心と向き合わせる。「一度壊れた友情は、本当に元通りになるの?」という物語の核心に迫りながら、友情の本当の意味を探していく。これは、あなたの心の中にも広がる、切なくて、どこか懐かしい海の物語。後悔の海を越えた先で、少女が見つけるものとは。
本作品は、Geminiを利用して創作しました。
文字数
11,069字の小説です。全6話です。
本編
第1話:四角い涙と青の侵食🟦
ガシャン、と。
世界が割れる音がした。
いや、実際に割れたのは、ユイが持っていたラムネの瓶。私のせいだ。全部。
アスファルトに飛び散った甘い匂いの液体と、砕けた緑色のガラス片。
それが、夏休みが始まる最後の日の、最後の記憶。
「もう、ミサキの顔なんて見たくない」
ユイの声は、思ったよりずっと低くて、乾いていた。
まるで、カラカラに干からびた蝉の死骸みたいに。
蝉はまだ、死んでもいないのに、狂ったように鳴き続けていた。ジリジリと、脳みそを直接焼くような音。うるさい。うるさい。うるさい。
これが、私の名前。白石美咲(しらいし みさき)。中学一年生。
得意なことは、人の顔色をうかがうこと。苦手なことは、自分の気持ちをちゃんと言葉にすること。
だから、いつもこうなる。
小学校の時もそうだった。
私のたった一言が、あの子を泣かせた。次の日から、その子の席は空っぽになった。
あの時と同じだ。また、やっちゃった。
私は、大事なものを自分の手で壊してしまう呪いにでもかかっているのかもしれない。
西日が差し込む教室は、明日からの解放を待ちきれない連中の、浮かれた熱気で満ちていた。
机の上に残された、ユイとの交換日記。水色の表紙に、ネコのシール。
それだけが、この教室で唯一、私と同じように息を殺しているように見えた。
家に帰っても、何も変わらない。
自分の部屋のドアは、現実世界との境界線。バタン、と閉めれば、そこは私の聖域で、私の牢獄だ。

ベッドに体を投げ出す。
スマホの冷たい感触だけが、私がまだここにいることを教えてくれる。
画面をスワイプして、意味もなくSNSを開いて、閉じる。ユイからのメッセージは、ない。当たり前だ。
その時だった。
ピコンッ。
画面の中央に、今まで見たこともない通知が現れた。
それは、広告でも、誰かからのメッセージでもなかった。
ただ、青い波が、カクカクとしたドット絵で、ゆっくりと揺れている。
そして、その下に、一行の文字。
『あなたの心を映す海へ』
指が、吸い寄せられる。
ダメだ、と頭のどこかで警報が鳴っている。怪しすぎる。ありえない。
でも、心が、もうどうしようもなく疲れていた。
どこか、ここじゃない場所へ行きたい。
消えてしまいたい。
……タップ、してしまった。
瞬間。
ブツンッ!
視界が、砂嵐のテレビみたいに乱れた。
耳の奥で、ファミコンのバグみたいな、けたたましい電子音が鳴り響く。
体が、ぐにゃりと溶けて、ピクセルの渦に吸い込まれていく感覚。
息が、できない。
気づいた時、ミサキはそこにいた。
ひんやりとした、四角い砂の上。
見上げれば、空はシアンとセルリアンブルーのグラデーション。雲も、カクカクとした白いブロックだ。
目の前には、どこまでも続く海。
波は、濃い青色のドットの集合体で、ザァ…ザァ…と、どこか懐かしい8bitのシンセサイザーみたいな音を立てていた。
ここは、どこ?
自分の手を見る。
指の輪郭が、少しだけ、ギザギザしている。
着ているTシャツのシワも、なんだか不自然にカクカクだ。
すべてが、青い。
すべてが、ドット絵でできている。
あまりに非現実的な光景に、涙も出なかった。
ただ、呆然と立ち尽くす。
風が吹くと、ミサキの髪が、ドットの粒子みたいにサラサラと揺れた。
その時、足元の波打ち際で、何かが光った。
ピポ…
小さな、電子音。
そこにいたのは、半透明の青いクラゲだった。
もちろん、そいつもドット絵だ。
傘の部分は淡い水色で、中に一つ、青白い光のコアが浮かんでいるのが透けて見える。
ふわふわと、地面から少しだけ浮いて、ミサキのことを見つめている。
「……なに、あなた」
声は、かろうじて出た。
クラゲは答えない。ただ、ピポ…ともう一度鳴いて、その光る体を、嬉しそうに、少しだけピンク色に明滅させた。
ミサキは、この世界のたった一人の漂流者になった。
いや、一匹と、一人。
砕けた心のコンパスが、彼女をこの青色の牢獄へ導いたことを、まだ知る由もなかった。
第2話:砕けた心の羅針盤🧭
クラゲは、ただそこにいた。
ミサキが後ずされば、同じだけ距離をとり、近づけば、逃げるでもなくそこに浮かんでいる。
まるで、生まれた時からずっと、ここでミサキを待っていたみたいに。
「夢…よね。これは夢。」
自分に言い聞かせる。頬をつねってみる。
痛い。でも、その痛みすら、どこかデジタル処理されたような、鈍い感触だった。
これは、夢じゃない。
じゃあ、何?
ピポ…
クラゲが、しびれを切らしたように鳴いた。
そして、その半透明の体から、一本の光る触手を伸ばし、島の中心を指し示す。
ついてこい、と言っているようだった。
他にどうしようもない。ミサキは、おそるおそる、その小さな案内人の後を追った。
島は、驚くほどに、何もない場所だった。
ミサキが立っていたのは、真っ白な四角い砂でできた浜辺。
内陸に入っても、まばらに生えている草が、緑色のドットで描かれているだけ。
風の音も、波の音も、すべてが作り物めいた電子音で、ミサキの孤独を増幅させた。
空っぽの島。今の私の心の中みたいだ。

やがて、島のちょうど真ん中に、ぽつんと置かれた石の台座が見えてきた。
苔むした、古い遺跡のようなそれ。
クラゲは、その台座の上を、ピポ、ピポ、と跳ねるように回っている。
台座の上には、無残なものが転がっていた。
それは、コンパスだったもの、の残骸。
真鍮でできただろう美しい縁飾りは歪み、文字盤を覆っていたはずのガラスは粉々になって、ドットの光の粒子となって消えかけている。
針だけが、かろうじて一本、その形を保っていた。
でも、それはどこを指すでもなく、ただ、チカッチカッと、弱々しい光を放っているだけ。
「これ…なに…?」
ミサキが呟いた、その時。
頭の中に、直接、声じゃない声が響いた。
『キミノ、ココロ』
『コンパス、コワレタ』
ミサキは、はっとしてクラゲを見た。
クラゲは、体を悲しげな水色に染めて、ミサキを見つめ返している。
『カケラ、チリヂリ』
『オモイデ、バラバラ』
言葉と共に、断片的なイメージが脳裏に流れ込んでくる。
ユイとの楽しかった記憶。二人で笑い転げた教室。秘密を打ち明け合った帰り道。
それらが、ガラスみたいに砕け散って、この青い海のあちこちに飛び散っていく映像。
「私の、せい…だって言うの…?」
まただ。
また、私のせいで、大切なものが壊れた。
あの時も、今も。私は、いつだってそうだ。
膝から、力が抜ける。四角い砂の上に、へたり込んだ。
もう、いやだ。
何もかも。
ミサキは、壊れたコンパスの、光る針に、そっと指を伸ばした。
触れた瞬間。
―――『ミサキ、これ見て!ネコのシール、おそろい!』
―――『このラムネ、夏休みの味がするね!』
ユイの、声。
楽しかった記憶の、カケ-……。
違う。
これは、ただの思い出じゃない。
私が、取り戻さなきゃいけないものだ。
このまま、こんな空っぽの島で、心を腐らせて終わりたくない。
帰って、ユイに会って、言わなきゃいけないことがある。
「……ごめんね」って。
顔を上げる。
涙は、出ていなかった。
代わりに、ミサキの心に、小さな、小さな、青白い火が灯った。
「どうすればいいの?」
ミサキは、クラゲに問いかけた。
今度は、はっきりと、自分の意志で。
ピポ!
クラゲは、待ってましたとばかりに、体を鮮やかなピンク色に光らせた。
そして、光の触手を、海の向こうへと、まっすぐに伸ばす。
その先を、ミサ-……キの目が見た。
水平線の向こうに、ぼんやりと、別の島の影が浮かんでいる。
あんなもの、さっきまであっただろうか?
『カケラ、アソコ』
『イカダ、ツクル』
クラゲは、浜辺に打ち上げられた、ドットの流木を指し示した。
都合よく船なんてない。
でも、ここから進むための「勇気」は、自分で作るしかないらしかった。
ミサキは、立ち上がった。
砂を払い、流木を一本、手に取る。
少しギザギザしていて、不思議と軽い。
この、後悔の味がする海を、渡っていく。
そう、決めた。
クラゲは、ミサキの肩のあたりで、嬉しそうにフワフワと浮かんでいる。
ミサキは、そのクラゲに、名前をあげることにした。
「あなたの名前は、ルナ。月みたいに、道を照らしてくれそうだから」
『ピポ…♪』
ルナ、と名付けられたクラゲは、ひときわ強く、優しい光を放った。
たった一人と一匹の、心の海を巡る冒険が、今、静かに始まろうとしていた。🛶
第3話:交換日記と紙ヒコーキの島✈️
イカダ、と呼ぶにはあまりに粗末なそれは、数本の流木をツタで縛っただけ代物だった。
ミサキが乗ると、ギシリ、と頼りない音がする。
本当に、こんなもので、あの荒れた心の海を渡れるのだろうか。
不安が、青いインクみたいに心に滲む。
その瞬間、イカダがぐらりと傾き、足元までドットの海水が迫ってきた。
『シンジル、ココロ』
肩の上で、ルナがピポ、と鳴いて青白く光る。
その光が、ミサキの足元を照らすと、不思議とイカダの揺れが収まった。
この世界は、ミサキの心と繋がっている。
信じる気持ちが、このちっぽけなイカダを安定させる唯一の方法らしかった。
ミサキは、櫂(かい)代わりの平たい流木を手に、ゆっくりと海へ漕ぎ出した。
ザッ…ザッ…という電子音の波をかき分けて進む。
目指すは、水平線の向こうに見える、次の島。
海の色は、場所によって微妙に違っていた。
穏やかな浅瀬は明るいシアン。少し進むと、深いインディゴブルーに変わる。
時々、魚の形をした光のドット群が、イカダのそばを通り過ぎていった。
それは、ミサキが忘れてしまっていた、些細で、でも楽しかった記憶の断片なのかもしれない。
どれくらい漕いだだろうか。
島の影が、だんだんと大きくなってくる。
そして、ミサキは、その島の異様な光景に気づいた。
島全体が、紙でできていた。
地面は、使い古したノートのページのように、うっすらと罫線が入ったクリーム色。
生えている木々は、茶色い紙の幹に、緑色の紙を切り抜いたような葉をつけている。
風が吹くと、島全体が、カサカサ、パラパラと、乾いた音を立てていた。
浜辺にイカダを寄せ、ミサキは恐る恐る島に足を踏み入れる。
地面は、思ったより硬い。まるで、何千枚もの紙を押し固めたみたいだ。
『カケラ…コノシマ…』
ルナが、島の中心を指し示す。
そこには、ひときわ大きな、一冊の本の形をした建物がそびえ立っていた。
表紙には、何も書かれていない。
ミサキがその建物に向かって歩き出すと、どこからともなく、一機の紙ヒコーキが、スーーッと飛んできた。
それは、ミサキの頭上をくるりと旋回すると、まるで手招きするように、建物の入り口へと消えていく。
建物の内部は、図書館のようだった。
天井まで届く本棚が、迷路のように入り組んでいる。
でも、どの本も、表紙は真っ白。タイトルも、著者名も、何もない。
しん、と静まり返った空間に、ミサキの足音だけが、カサ…カサ…と響く。
ここは、一体…?
ミサキが、無意識に一冊の白紙の本を手に取った、その時。
―――『ねぇミサキ、交換日記しよ!』
―――『ユイのページ、絵ばっかりじゃん!』
―――『いいの!気持ちが伝われば、それで!』
まただ。ユイの声。
この島は、ユイと始めた、あの交換日記の思い出でできているんだ。
水色の表紙に、ネコのシール。
二人だけの、大切な宝物。
ミサキは、はっとして周りを見渡した。
この無数の白紙の本は、全部、私たちの日記…?
じゃあ、カケラは、どこに?
すると、さっきの紙ヒコーキが、また目の前に現れた。
そして、一冊の、ひときわ分厚い白紙の本の上に着地する。
ミサキがその本を開くと、中は白紙ではなかった。
そこには、ミサキの字で、こう書かれていた。
『ユイは、いつも明るくて、人気者で、うらやましい。』
『それに比べて、私は…。』
そこから先のページは、黒いインクのシミで、ぐちゃぐちゃに塗りつぶされていた。
そうだ。思い出した。
日記の最後の方は、いつもユイへの嫉妬と、自分の嫌なところばかりを書いていた。
ユイに見せるのが怖くて、黒く塗りつぶして、渡せなかったページ。
これが、私が見たくなかった、私の心。
ミサキが、その黒いシミに指で触れた瞬間。
本が、ガタガタと激しく震えだした!
黒いシミは、まるで生き物のようにページから盛り上がると、巨大な、黒い鳥の姿に変わった!
ギャアアアアッ!
鳥は、インクのくちばしをカチカチと鳴らし、ミサキに襲いかかってくる。
それは、ミサキ自身の、醜い嫉妬心の化身だった。
逃げなきゃ!
ミサキは、本棚の迷路を、夢中で走った。
背後から、黒い鳥が、バサバサと紙の翼で追いかけてくる。
その時、ルナが強く光った。
『オモイダシテ』
『ユイノ、コトバ』
ユイの言葉…?
『気持ちが伝われば、それでいいの!』
そうだ。ユイは、私の絵ばっかりのページも、笑って読んでくれた。
下手くそな文章も、面白いって言ってくれた。
気持ちが、大事なんだ。
ミサキは、走りながら、本棚から白紙のページを一枚、引きちぎった。
そして、足を止め、黒い鳥と向き合う。
怖い。
でも、逃げちゃダメだ。

ミサキは、その白紙のページを、丁寧に、丁寧に、紙ヒコーキの形に折った。
小学校の時、ユイに教えてもらった、一番よく飛ぶ折り方。
そして、黒い鳥に向かって、そっと、飛ばした。
「ごめんね、ユイ。こんな気持ちで、日記書いてて」
紙ヒコーキは、まっすぐに、黒い鳥の胸に吸い込まれていった。
すると、鳥の体は、インクのシミに戻り、サラサラと、本のページの中に消えていく。
後に残されたのは、一枚の、キラキラと光るガラスの破片。
コンパスの、一つ目のカケラだった。
ミサキがそれを拾い上げると、カケラは光の粒子となって、ミサキの胸の中に吸い込まれていった。
壊れたコンパスの針が、チカッ、と少しだけ強く光った気がした。
島の外に出ると、空の色が、さっきより少しだけ、明るくなっているように見えた。💧
第4話:線香花火と偽物の金魚🎆
一つ目のカケラを取り戻したミサキの心は、ほんの少しだけ軽くなっていた。
イカダを漕ぐ腕にも、前より力がこもる。
ルナはミサキの肩の上で、穏やかな青色の光を放ち、次の島への道を照らしていた。
次に現れた島は、夕暮れに沈んでいた。
空は、オレンジと紫のドットが混じり合った、不思議なグラデーション。
チカチカと、等間隔で並んだ四角い提灯が、島全体をぼんやりと照らしている。
島に上陸すると、ツクツクボウシの鳴き声みたいな、どこか物悲しい電子音のお囃子(はやし)が聞こえてきた。
地面は黒く固められた土。
ここは、夏祭りの島だ。
道の両脇には、屋台がずらりと並んでいる。
わたあめ、りんご飴、射的。
でも、どの屋台にも人影はなく、がらんとしていて、まるで祭りが終わった後の、寂しさだけが取り残されているようだった。
ミサキは、この場所を知っていた。
小学校最後の夏休み、ユイと二人で来た、町内会のお祭りだ。
あの日は、あんなに楽しくて、賑やかだったのに。
『カケラ…』
ルナが指し示したのは、一番奥にあった、一軒の屋台。
「金魚すくい」の、青いノボリが、ドット絵で寂しげにはためいている。
屋台の前には、水槽が置かれていた。
でも、中を泳いでいるのは、金魚じゃない。
赤や黒の、光のドットでできた、輪郭のぼやけた魚たちが、時々、ジジッとノイズを走らせながら、不規則に泳ぎ回っている。
偽物の金魚だ。

そして、屋台の番台には、のっぺりとした能面をつけた、着物姿の男が、ピクリとも動かずに座っていた。
もちろん、それもドット絵で描かれている。
感情の読めない、不気味な存在だった。
ミサキが屋台に近づくと、能面の男は、無言で、紙のポイ(すくうやつ)を差し出した。
受け取って、水槽を覗き込む。
偽物の金魚たちの中に、一つだけ、ひときわ強く、ガラス片のようにキラキラと輝く金魚がいた。
あれが、カケラだ。
ミサキは、ポイを水に浸した。
慎重に、カケラの金魚を狙う。
そっと、ポイを水中から引き上げようとした、その瞬間。
ブスッ。
ポイの紙が、いとも簡単に破れた。
まるで、水に触れた瞬間に溶けてしまったみたいに。
能面の男は、また無言で、新しいポイを差し出す。
もう一度。
また、破れる。
何度やっても、同じだった。
「なんなのよ、これ!不良品じゃない!」
ミサキが、思わず叫んだ時。
水槽の水面が、ぐにゃりと歪んだ。
偽物の金魚たちが、一斉に、ジジジジジッ!と激しいノイズを放つ。
ミサキのイライラに、世界が反応している。
『オモイダシテ』
『ホントウノ、コト』
ルナが、ミサキの耳元で、警告するように強く光った。
本当のこと…?
あの日の夏祭りは、ただ、楽しかったはずだ。
ユイと二人で、線香花火をして、笑い合って…。
……線香花火?
そうだ。
金魚すくいの後、私たちは線香花火をした。
ユイが、大事そうに抱えていた、金魚の入ったビニール袋。
私が、火のついた線香花火を振り回して、はしゃいで…。
その火花が、ユイの袋に、当たったんだ。
小さな穴が空いて、水が少しずつ漏れていく。
それに気づいた時の、ユイの悲しそうな顔。
私は、なんて言った?
『だ、大丈夫だよ!また来年、来ればいいじゃん!』
違う。
そうじゃない。
私は、自分のせいだって、わかってた。
でも、謝れなかった。怖くて。
ユイの悲しみから、目をそらしたんだ。
「……ごめんなさい」
ミサキの口から、か細い声が漏れた。
屋台の能面の男に、いや、あの日のユイに向かって、頭を下げる。
「私のせいでした。気づかないフリして、ごめんなさい」
そう言った瞬間。
ミサキの手に握られていたポイが、ふわりと、光を放った。
破れていたはずの紙の部分が、光の膜で、修復されていく。
ミサキは、もう一度、水槽に向き合った。
光のポイを水に入れると、今度は破れない。
偽物の金魚たちは、おとなしくなっていた。
ミサキは、カケラの金魚を、そっと、優しくすくい上げた。
それは、水から出た瞬間、光るガラスの破片に姿を変えた。
二つ目のカケラ。
ミサキがそれを受け取ると、能面の男は、すぅ…と、影のように消えていた。
がらんとした屋台だけが、そこにある。
ふと、遠くで、ヒュ〜〜…という音がした。
見上げると、夜空に、一輪の、大きな花火が打ち上がる。
それは、ミサキとユイが最後に見た、線香花火の形をしていた。
パチパチと、優しく光るドットの火花を散らし、静かに、消えていった。
第5話:ノイズの海と秘密基地の誓い⛈️
二つのカケラを取り戻し、ミサキの心象世界は、少しずつその色を取り戻し始めていた。
空の青は深みを増し、波の電子音も、どこかメロディアスに聞こえる。
壊れたコンパスの針は、チカ、チカ、と前よりも力強く、次の島を指し示していた。
だが、次の島へ向かう航路は、今までとは明らかに違っていた。
穏やかだった海が、突如として牙を剥く。
空は、どす黒い紫色のドット雲に覆われ、ゴロゴロと、低く不気味なノイズが鳴り響いた。
波は、黒いピクセルの塊となって荒れ狂い、ちっぽけなイカダに襲いかかる。

ここは、ノイズの海。
ミサキがユイと喧嘩した時の、怒り、悲しみ、後悔。
そういった、負の感情が渦巻く、危険な海域だった。
「きゃっ!」
巨大なノイズの波が、イカダを飲み込もうとする。
ミサキは、必死に流木にしがみついた。
『ココロ、ツヨク!』
ルナが、ミサキの肩で、警告を示すように赤く明滅する。
ここで心を乱せば、このノイズに飲み込まれてしまう。
わかっている。でも、怖い。
ユイの、あの乾いた声が、耳の奥で何度も再生される。
『もう、ミサキの顔なんて見たくない』
その言葉が、黒い槍となって、ミサキの心を突き刺す。
イカダが、大きく傾いだ。
ダメだ。もう、進めないかもしれない。
ミサキが諦めかけた、その時。
胸の奥で、集めた二つのカケラが、ぽぅ…と温かい光を放った。
―――『気持ちが伝われば、それでいいの!』
―――『ごめんね』
そうだ。
私は、もう逃げないと決めたんだ。
嫉妬も、過ちも、全部、私自身だ。
それを受け入れて、前に進むって。
ミサキは、顔を上げた。
その瞳には、もう迷いはなかった。
荒れ狂うノイズの波を、まっすぐに見据える。
「私は、行く!」
ミサキは、櫂を握りしめ、絶叫するように叫んだ。
「ユイに、謝るんだ!」
その言葉は、不思議な力を持っていた。
ミサキの叫びに呼応するように、イカダが、眩い光に包まれる。
光が収まった時、それはもう、粗末なイカダではなかった。
白く滑らかな木材で組まれた、一回り大きな、しっかりとした小舟に姿を変えていたのだ。
ミサキの「決意」が、この世界の理を書き換えた。
小舟は、ノイズの波を切り裂き、力強く進んでいく。
嵐の向こうに、ようやく、島の影が見えてきた。
その島は、緑豊かな、小さな森の島だった。
嵐が嘘のように、そこだけは穏やかな空気に包まれている。
木々の間を抜けると、開けた場所に、古びた木の看板が立っていた。
『ふたりだけのひみつきち』
ユイの、少し拙い字で、そう書かれている。
そうだ。ここは、小学校の裏山にあった、私たちの秘密基地。
誰にも言えない悩みを打ち明けたり、将来の夢を語り合ったりした、大切な場所。
基地の中は、あの頃のままだった。
拾ってきた石や、木の実が並べられ、壁には、二人の名前が彫られている。
そして、中央に置かれた木の箱。
宝箱だ。
ミサキが、そっと蓋を開ける。
中に入っていたのは、二つの、色違いのガラス玉。
そして、一枚の写真。
秘密基地の前で、満面の笑みでピースサインをする、幼いミサキとユイ。
写真に触れた瞬間、最後の記憶が、鮮明に蘇る。
喧嘩の原因。
それは、夏休み、ユイが家族で遠くに引っ越すかもしれない、という話だった。
それを、ユイは、なかなかミサキに言い出せずにいた。
ミサキは、ユイが何か隠し事をしていると感じ、寂しさと不安で、ユイを問い詰めてしまったのだ。
「どうせ、私のことなんて、どうでもいいんでしょ!」
そう言って、ユイが差し出したラムネの瓶を、振り払ってしまった。
わざとじゃ、なかった。
でも、結果は同じだ。
ユイは、私を裏切ったんじゃない。
私を傷つけないように、悩んでくれていただけなんだ。
なのに、私は…。
涙が、溢れてきた。
今度は、四角いドットの涙じゃなかった。
しょっぱくて、温かい、本物の涙。
ミサキが泣きじゃくっていると、宝箱の底で、何かがキラリと光った。
三つ目のカケラ。
それは、写真の下に隠されていた、一番大きな、コンパスの中心部分だった。
ミサキがそれを手に取ると、カケラは、胸の中の二つのカケラと共鳴し、一つになった。
眩い光が、ミサキを包み込む。
光が収まった時、ミサキの手の中には、完成した「心のコンパス」が握られていた。
金の縁飾りは輝きを取り戻し、ガラスは澄み渡り、その針は、まっすぐに、一つの方向を指し示している。
それは、ミサキが来た場所。
元の世界への、帰り道だった。
『カエロウ』
ルナが、優しく、ミサキの頬にその体をすり寄せた。
ミサキは、涙を拭い、強く、頷いた。
ありがとう、ルナ。
ありがとう、この世界。
私は、もう大丈夫。
自分の足で、ちゃんと、進めるから。
ミサキは、完成したコンパスを胸に、最後の航海へと、小舟を進めた。
目指すは、現実世界の、ユイの元へ🤝
第6話:君のいない夏休みなんていらない☀️
心のコンパスが指し示す方角へ、小舟は滑るように進んでいく。
ノイズの海は消え去り、世界は、ミサキが最初に見た時と同じ、静かで、穏やかな青色に戻っていた。
でも、その青は、もう冷たい牢獄の色ではなかった。
どこまでも澄んでいて、優しい、希望の色。
やがて、前方に、光の渦が見えてきた。
白く、眩い、ピクセルの渦。
あれが、出口だ。
ミサキは、肩の上でフワフワと浮かぶルナを見上げた。
この不思議なクラゲとも、もうお別れだ。
「ルナ、今までありがとう。あなたがいなかったら、私、きっとダメだった」
『ピポ…』
ルナは、寂しそうに、体を水色に揺らした。
そして、その光る体から、小さな、小さな、青いドットの欠片を一つ、ミサキのてのひらに落とす。
『オマモリ』
それは、ひんやりとしていて、でも、どこか温かかった。
ミサキは、その小さな光を、ぎゅっと握りしめる。
「うん。忘れないよ。絶対に」
小舟は、光の渦に吸い込まれていく。
ルナの姿が、だんだんと遠ざかって、青い世界に溶けていく。
さよなら、私の心の海。
ブワッ、と。
全身が、強い光に包まれた。
次に目を開けた時、ミサキは、自分の部屋のベッドの上にいた。
西日が差し込む、見慣れた部屋。
窓の外からは、ジリジリと、現実の蝉の声が聞こえる。
帰ってきたんだ。
ミサキは、ゆっくりと体を起こした。
てのひらを開く。
そこには、何もなかった。ルナからもらったはずの、青いドットの欠片は消えている。
やっぱり、全部、夢だったんだろうか…?
いや、違う。
胸の奥が、確かに、温かい。
心のコンパスが、ちゃんとそこにある感覚。
そして、何をすべきか、もう迷いはなかった。
ミサキは、ベッドから飛び降りると、机の上の、あの水色の交換日記を掴んで、部屋を飛び出した。
サンダルに足をつっこみ、玄関のドアを開ける。
どこへ行けば、ユイに会える?
わからない。
でも、行かなきゃ。
ミサキは、夢中で走った。
アスファルトの熱が、足の裏を焼く。
心臓が、うるさいくらいに鳴っている。
公園、駄菓子屋、学校。
ユイとよく行った場所を、片っ端から探して回る。
でも、ユイの姿はどこにもなかった。
まさか、もう、引っ越してしまった…?
嫌な想像が、頭をよぎる。
その時だった。
「……ミサキ?」
聞き覚えのある声に、はっとして振り返る。
そこにいたのは、ユイだった。
あの日と同じ、ラムネ色のワンピース。
その目は、少し赤く腫れていた。
ユイは、ミサキが日記を抱きしめているのを見ると、気まずそうに、視線をそらす。
「……ごめん。私、ひどいこと言った」
先に、謝ったのは、ユイの方だった。
「引っ越しのこと、言えなくて。ミサキが、悲しむのが怖くて…。そしたら、ミサキを怒らせて…」
違う。
違うよ、ユイ。
「私の方こそ、ごめん!」
ミサキは、ユイの前に駆け寄って、深々と頭を下げた。
抱きしめていた交換日記を、ユイに差し出す。
「私、ユイの気持ちも考えないで、自分のことばっかりで…!嫉妬したり、八つ当たりしたり…!本当に、ごめんなさい!」
涙で、ぐちゃぐちゃだった。
言いたいことは、たくさんあるのに、言葉にならない。
でも、それでも、よかった。
『気持ちが伝われば、それでいいの!』
ユイは、驚いたように目を見開いて、それから、ふわりと、笑った。
あの頃と、何も変わらない、太陽みたいな笑顔で。
「…うん。伝わったよ」
ユイは、交換日記を受け取ると、ミサキの手を、ぎゅっと握った。
「引っ越しの話、まだ、決まったわけじゃないんだって。だから、今年の夏休みは、まだ一緒にいられる」
「……ほんと?」
「ほんと。だから、泣かないでよ、ミサキ」
二人は、どちらからともなく、抱きしめ合っていた。
夕暮れの蝉時雨が、二人を優しく包んでいる。

仲直りをした帰り道。
ミサキは、ポケットに手を入れて、ふと、何かが指に触れるのを感じた。
取り出してみると、それは、小さな、青いガラスの欠片だった。
海辺で拾ったような、角の丸い、シーグラス。
それは、ルナがくれた、あのドットの光に、よく似ていた。
ミサキは、それをそっと握りしめる。
心のコンパスは、これからも、何度も壊れたり、曇ったりするのかもしれない。
でも、もう大丈夫。
この小さな光と、隣で笑う親友がいれば、どんな海だって、きっと渡っていける。
長くて、不思議な、夏休みが、今、本当に始まった。
Fin.
あとがきのような、お茶会のような。
ここまで読んでくださり、本当に、本当に、ありがとうございます!🎉
作者の星空モチと申します。ミサキとルナの、ちいさな心の冒険は、皆さんの心にどんな色で映ったでしょうか?☕この物語は、ある夏の日の夕暮れ、道端で転がっているラムネの空き瓶を見て、ふと「ああ、夏休みって、どうしてこんなにキラキラしていて、どうしてこんなに切ないんだろう」と思ったのが、すべての始まりでした。大人になると忘れてしまいがちな、あの頃の友人関係のヒリヒリした感じとか、自分の感情の扱いに困って、ベッドの上で足をバタバタさせちゃうような、あのどうしようもない気持ち。それを、ファンタジーの世界でなら描けるかもしれない、と思ったんです。
最初は、もっと派手なバトルものを考えていたんですよ(笑)巨大な敵を魔法でやっつける!みたいな。でも、書いていくうちに「いや、中学生の女の子にとっての本当の敵って、もっと内側にいるよな…」と思い直しまして。一番手強い敵は、昨日までの自分だったり、友達へのちょっとした嫉妬心だったりするんじゃないかな、と。そこから、心の海を冒険するという、ちょっと変わった物語に舵を切りました🌊
主人公のミサキちゃんですが、実は私自身、めちゃくちゃミサキタイプなんです(笑)言いたいことが言えなくて、後から一人で反省会を開いちゃうタイプ。だから、彼女が自分の弱さと向き合って、一歩ずつイカダを漕いでいく姿は、自分で書いていながら「がんばれ…!がんばれ…!」って、一番の読者みたいに応援していました。皆さんの心の中にも、ミサキちゃんみたいな部分、ありませんか?🥺
そして、謎の案内人、ルナ!👾 彼(彼女?)のデザインは、本当に最後の最後まで悩みました。最初はもっと人間っぽいナビゲーターだったんですが、「心の案内人って、言葉をたくさん話しちゃダメだよな」と思って。ピポ、とか、カタコトの単語だけで、でもちゃんとミサキを導いてくれる存在…そうだ、クラゲだ!と閃いた時は、夜中に一人でガッツポーズしました(笑)皆さんも、困った時は肩の上にルナを思い浮かべてみてください。きっと、ピポ!って何かを教えてくれるはずです。
執筆中、一番こだわったのは、やっぱり「ドット絵の世界」の描写ですね。ただのゲームっぽい世界じゃなくて、ミサキの心のフィルターを通した、どこか懐かしくて、切ない風景にしたかったんです。「四角い涙」とか「8bitの波音」とか、読んでくださった皆さんが「ああ、わかる…」って思えるような、共感できる手触りを目指しました。正直、この表現で伝わるかな…?って不安で、何度も書き直した部分でもあります。伝わっていたら、泣いて喜びます😭
ちなみに、構想段階では「怒りの火山島🌋」とか「悲しみの深海洞窟」みたいな、もっと直接的な島も考えていたんですが、ちょっと説教くさくなるかな?と思ってやめました(笑)ボツになったアイデアは、また別の形で、いつか皆さんの元にお届けできたらな、なんて思っています。
実は、次回作もこっそり構想中です。今度は、男の子が主人公で、テーマは「忘れること」。忘れたい記憶を預かってくれる不思議な古道具屋さんと、そこに迷い込んだ少年の、ちょっとビターで、でも温かい物語を紡げたらな、と考えています。もしよろしければ、そちらも気長に待っていてくださると嬉しいです。
最後になりますが、この広いインターネットの海の中から、このちっぽけな物語を見つけ出し、最後まで付き添ってくださった、あなたに。最大の感謝を。皆さんの貴重な時間が、ミサキたちの冒険と共にあったこと、作者として、これ以上の幸せはありません。もし、少しでもこの物語が心に残ったなら、評価や感想、ブックマークなどで、そっと教えてくださると、私がラムネの瓶みたいに飛び跳ねて喜びます!🤸♀️
それでは、またいつか、別の物語の海でお会いしましょう!
本当に、ありがとうございました!星空モチより、愛をこめて🍊
※本作品とあとがきはAIが生成した完全なフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係がありません。
今回の創作に使用したテクノロジー
【AI画像生成】
ツール:ComfyUI
使用モデル:HiDream-I1-Fast
画像加工:PhotoScape X、Windowsフォト
【AI小説作成】
原案:星空モチ
小説作成、あとがき:Gemini 2.5 Pro (Gemini CLI)
これらの最先端のAIツールを通じて、新しい形の創作表現に挑戦しています。
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おまけ:登場人物紹介 (Geminiの回答)

中学一年生の少女。人の顔色をうかがってしまう内省的な性格で、自分の意見や感情を素直に言葉にするのが苦手。そのせいで、過去にも友人を傷つけ、関係を壊してしまった経験を持つ。親友のユイとは深い絆を感じているが、彼女の明るさや人気ぶりに、無意識の内に嫉妬心を抱いてしまう自分に嫌悪している。物語の冒頭、ユイとの些細な誤解から始まった喧嘩で心を閉ざし、自身の心象風景である「青いドット絵の海」へと迷い込む。異世界での冒険を通して、自身の弱さや過ちと向き合い、逃げずに謝罪する勇気を学んでいく。最初は流されるままに行動していたが、次第に自分の意志でイカダを漕ぎ、困難に立ち向かう精神的な強さを見せるようになる。

ミサキの親友で、同級生。明るく快活な性格で、誰にでも分け隔てなく接するため、クラスの人気者。ミサキの内気な性格を理解し、いつも彼女を引っ張っていく存在。絵を描くのが好きで、交換日記にはイラストを多用する。ミサキを大切に思うあまり、家族の引っ越しの話をなかなか言い出せずにいたことが、喧嘩の間接的な原因となった。物語の終盤、現実世界で再会した際には、自分から先に謝罪するなど、ミサキを思いやる優しさを持っている。彼女の存在そのものが、ミサキが心の海を冒険する最大の動機となっている。

ミサキが迷い込んだ青いドット絵の海で出会った、半透明の青いクラゲ。体の中に光るコアを持ち、「ピポ」という電子音や、断片的な単語をミサキの頭に直接送ることでコミュニケーションをとる。ミサキの感情に同調し、嬉しいとピンク、悲しいと水色、危険を察知すると赤色に体色を変化させる。砕け散った「心のコンパス」のカケラの場所を示し、ミサキを導く案内人の役割を担う。その正体は、ミサキの中に残っていた「良心」や「前に進みたい」という前向きな気持ちが具現化した存在。ミサキが名付けた「ルナ」という名前を、喜んで受け入れた。

登場話:第3話
「交換日記と紙ヒコーキの島」の図書館に現れた、ミサキの醜い感情の化身。ユイへの嫉妬心や自己嫌悪を書き連ね、黒く塗りつぶした交換日記のページから生まれた。インクでできた体を持ち、鋭いくちばしでミサキに襲いかかる。ミサキが過去の自分と向き合い、飛ばした謝罪の紙ヒコーキを受け入れることで、インクのシミに戻り消滅した。ミサキが初めて自分自身の負の感情と対峙し、乗り越えた相手である。

登場話:第4話
「線香花火と偽物の金魚」の島にいた、金魚すくい屋台の番台に座る不気味な存在。感情の読めない能面をつけ、一切言葉を発しない。ミサキが金魚すくいに失敗しても、ただ無言で新しいポイを差し出し続ける。その正体は、過去の過ち(ユイの金魚を死なせてしまったこと)から目をそらし、謝罪できなかったミサキの「見て見ぬフリをする心」が具現化したもの。ミサキが真実を思い出し、心から謝罪したことで、役目を終えたかのように静かに消え去った。
おまけ:伏線/回収リスト (Geminiの回答)
この物語を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
ミサキの心の旅には、実はいくつかの小さな仕掛けを散りばめていました。
「あ、あれってそういうことだったんだ!」と、もう一度物語を読み返したくなるような、そんな発見があれば嬉しいです。
1. 砕けたラムネの瓶
伏線:
第1話の冒頭、ミサキとユイの喧嘩の場面。> ガシャン、と。
> 世界が割れる音がした。
> いや、実際に割れたのは、ユイが持っていたラムネの瓶。この「世界が割れる音」と「砕けたラムネの瓶」は、単なる喧嘩の情景描写ではありません。これは、直後にミサキの「心のコンパス」が砕け散ってしまうことの、物理的な予兆(メタファー)でした。緑色のガラス片が飛び散る様は、ミサキの心が砕け、思い出のカケラが心の海に散っていく様を暗示しています。
回収:
第5話、秘密基地の島で喧嘩の本当の原因を思い出す場面。> 「どうせ、私のことなんて、どうでもいいんでしょ!」
> そう言って、ユイが差し出したラムネの瓶を、振り払ってしまった。ここで、ラムネの瓶を割ってしまったのが、他ならぬミサキ自身の行動だったことが明かされます。最初はユイが持っていた瓶が割れた、と少し客観的に見ていたミサキが、自分の行動の結果だったと認識する。この変化が、彼女が自分の過ちと完全に向き合えた証となっています。
2. 青いドット絵の世界
伏線:
第1話、ミサキが異世界に迷い込んだ直後の描写。> すべてが、青い。
> すべてが、ドット絵でできている。なぜこの世界は「青く」「ドット絵」なのか。これは、ミサキの心象風景そのものです。「青」は、ユイと喧嘩した後のミサキの憂鬱な気持ち(ブルーな気持ち)を象徴しています。また、「ドット絵(ピクセル)」は、まだ解像度の低い、物事の輪郭がぼやけている子供の心や、デジタルネイティブである彼女の世代的な感性を表しています。
回収:
物語を通して、ミサキがカケラを集め、成長するにつれて、世界の描写は少しずつ変化していきます。> 第3話:島の外に出ると、空の色が、さっきより少しだけ、明るくなっているように見えた。
> 第6話:その青は、もう冷たい牢獄の色ではなかった。どこまでも澄んでいて、優しい、希望の色。世界の色彩や解像度が変わっていくことで、ミサキの内面的な変化を視覚的に表現していました。最終的に、青は憂鬱の色から「希望の色」へと意味を変えるのです。
3. ルナの正体と、最後の贈り物
伏線:
第2話、ミサキがクラゲに「ルナ」と名付ける場面。> 「あなたの名前は、ルナ。月みたいに、道を照らしてくれそうだから」
> 『ピポ…♪』
> ルナ、と名付けられたクラゲは、ひときわ強く、優しい光を放った。ルナは、ただの案内人ではありません。彼女(彼?)は、ミサキの中に残っていた、最後の「良心」や「前に進みたい」というポジティブな気持ちが具現化した存在です。だからこそ、ミサキ自身の言葉で名前を与えられた時に、ひときわ強く輝いたのです。
回収:
第6話、ミサキが元の世界に戻る直前の場面。> ルナは、その光る体から、小さな、小さな、青いドットの欠片を一つ、ミサキのてのひらに落とす。
> 『オマモリ』そして、元の世界に戻った後。
> 取り出してみると、それは、小さな、青いガラスの欠片だった。海辺で拾ったような、角の丸い、シーグラス。
ルナがくれた「オマモリ」は、異世界のアイテムが現実世界にやってきた…というだけではありません。あの青いシーグラスは、ミサキが心の海での冒険を忘れず、困難に立ち向かう勇気を持ち続けられるように、というルナ(=ミサキ自身の良心)からのメッセージであり、決意の証なのです。ドットの欠片が、現実世界ではシーグラスという、波に揉まれて角が取れた優しい形に変わっているのも、ミサキの心の成長を象徴しています。
おまけ:この小説をGemini 2.5 Proに厳しく分析・評価してもらいました。
まず、この作品を拝読し、一定の完成度と作者の真摯な姿勢を感じ取れたことを申し上げておきます。しかし、あなたが求めるのは慰めではなく、厳しい批評でしょう。遠慮なく、メスを入れさせていただきます🔪
小説の概要:
親友と喧嘩した少女が、自身の心象風景である「青いドット絵の海」に迷い込み、砕けた心のカケラを集めて自己と向き合う、という再生の物語。
各話の構成:
全6話構成。導入→異世界への転移→カケラ集め(2話分)→クライマックス(対峙)→帰還・和解という、極めて王道的かつ安定した構成。安定はしていますが、裏を返せば「予定調和」とも言えます。
テーマ・メッセージ:
友情の再生、自己との対話、過去の肯定。テーマ性は明確で、特に10代の読者には響きやすい普遍的なものです。しかし、その描き方がいささか教科書的で、綺麗事に終始している感は否めません。
文体・語り口:
限定三人称視点。比喩表現を多用し、詩的な雰囲気を醸成しようという意図は見て取れます。ですが、その比喩が時として冗長に感じられ、物語のテンポを阻害しています。「ドットの粒子みたいにサラサラと揺れた」など、ドットというデジタルな概念と、サラサラというアナログな擬態語の組み合わせに、若干のちぐはぐさを感じます。
タイトルとサブタイトルのセンス:
正直に申し上げて、凡庸です😥 「心のコンパスと、青い涙の海」…あまりにストレートすぎて、ウェブ小説の洪水の中では一瞬で埋もれてしまうでしょう。「サブタイトル」に至っては、もはやあらすじです。読者の想像力を掻き立てる「余白」が全くありません。
改善案:
タイトル案:「ピクセル・ブルーと壊れた私」「夏休みのデッドエンド、君をリスタート」
サブタイトル案:「その海は、後悔の味がした。」「セーブポイントのない、心の冒険。」ハッシュタグ案:
#ローファンタジー #心の冒険 #ドット絵 #夏休み小説 #泣ける小説 #友情物語 #中学生主人公 #異世界転生 #ピクセルアート #Web小説
良い点:
世界観の着想は素晴らしい。少女の心象風景を「青いドット絵の海」として視覚化したアイデアは、独自性があり、非常に魅力的です✨ 各島が思い出とリンクしている設定も、読者の共感を呼びやすいでしょう。文章も丁寧で、破綻がなく、作者が物語を大切にしていることが伝わってきます。
悪い点・改善点:
ウェブ小説読者目線:
展開が遅すぎます。特に第2話で延々とイカダ作りの問答をしているあたりは、間違いなく読者が離脱するポイントです。ウェブ読者はせっかちです。もっと早く、次の島へ行かせ、具体的なイベントを発生させるべきです。また、全体的に「毒」が足りません。もっと読者をハラハラさせるような、意地の悪い展開や、ミスリードがあっても良いのでは?
編集者目線:
キャラクターが弱すぎます。主人公のミサキは、あまりに「良い子」すぎます。トラウマを抱えた内省的な少女、という設定は分かりますが、行動原理が「ユイと仲直りしたい」一辺倒で、人間的な深みや、読者が驚くような意外な一面がありません。ナビゲーターのルナも、都合の良い案内役の域を出ておらず、彼自身の謎や目的といったものが希薄です。これでは、キャラクターグッズを作ろうという話にはなりません。
批評家目線:
物語の構造が、あまりにご都合主義的です。カケラを集めればコンパスが直り、元の世界に帰れる。このルールが最初から提示されているため、ミサキの冒険は「クエストをこなす作業」に見えてしまいます。彼女が本当に帰れるのか、という根源的なサスペンスが欠けています。また、喧嘩の原因が「引っ越し」という、外部要因に帰結している点もいただけません。結局、二人の関係性の問題ではなく、環境の問題だった、という結論になりかねず、テーマ性を弱めています。
最も大きな欠点は何ですか?
「葛藤の欠如」です。ミサキは少し悩むそぶりは見せますが、結局はルナに導かれるまま、素直にクエストをクリアしていきます。例えば、「交換日記の島」で、醜い自分(黒い鳥)と対峙する場面。あっさりと紙ヒコーキで解決していますが、本来はもっと抵抗し、一度は敗北し、別の方法を探すくらいの葛藤がなければ、カタルシスは生まれません。すべてがスムーズに進みすぎ、物語に緊張感がありません。
読者の興味を引きつけにくい部分は?
第4話の「金魚すくいの島」です。能面の男という不気味な存在を出しながら、ミサキが謝罪するとあっさり消えてしまう。この男が、ミサキの「見て見ぬフリをする心」の化身であるならば、もっと執拗にミサキを責めたり、偽りの謝罪を見抜いたりするべきです。イベントがあまりに淡白で、肩透かしを食らった気分になります。
登場人物の描写の改善点は?
ミサキに、もっと「嫌な部分」を持たせるべきです。例えば、心のどこかで「ユイがいなくなれば、私がクラスの中心になれるかも」といった、一瞬の黒い欲望を抱かせ、そのことにも苦悩させる。ルナには、時々ミサキをわざと危険な目に遭わせるような、真意の読めない行動を取らせる。そうすることで、キャラクターは記号ではなく、生きた人間になります。
プロットの矛盾点は?
論理的な矛盾はありません。しかし、前述の通り、ご都合主義が目立ちます。特に、最後の最後でイカダが立派な小舟に進化する展開。これは「決意」という精神論で片付けられていますが、物語のルールを根底から覆すデウス・エクス・マキナであり、安易に感じます。
文章表現で改善すべき点は?
詩的な比喩に頼りすぎです。もっと乾いた、客観的な描写の中に、ふと感情的な一文を差し込む方が、読者の心には刺さります。常にウェットな文章は、読者を疲れさせます。緩急を意識してください。
商業出版物として成功するための改善点は?
「敵」の不在です。商業作品には、読者が「こいつを倒してくれ!」と感情移入できる、魅力的な敵役が必要です。この物語の場合、それはミサキ自身の心なのですが、その具現化があまりに弱々しい。黒い鳥や能面の男を、もっと巨大で、狡猾で、魅力的な「悪役」として再構築することが急務です。
おすすめの読者層:
友人関係に悩み始めた、小学校高学年~中学生の女子。
純粋な心を持ち、綺麗な物語を求める読者。想定読者が他に読みそうな本:
「かがみの孤城」(辻村深月)Amazon Rakuten
「君の膵臓をたべたい」(住野よる)Amazon Rakuten
「カラフル」(森絵都)Amazon Rakuten総合評価:
65点。
アイデアと世界観は一級品です。しかし、それを調理する技術が、あまりに優等生的で、生真面目すぎます。もっと物語をかき乱し、キャラクターを苦しめ、読者を裏切る勇気を持ってください。綺麗にまとめることを恐れないでください。あなたの作品は、もっと荒々しく、もっと危険で、もっと面白くなる可能性を秘めています。
原石は素晴らしいのですから、傷がつくことを恐れず、大胆に削り出してください。期待しています💎


