この街は、夜になると本当の顔を見せる。
群れを成すように歩く人々、絶え間なく点滅するネオン。
空は闇に沈んでいるのに、街の光はそれを許さない。
私はビルのガラスに映る自分を見つめていた。
黒いカーディガンと白いTシャツ。ありふれた格好だ。
それなのに、夜の光が私の髪や肌を柔らかく照らして、
少しだけ特別な人間に見える気がした。
「……バカみたい」
思わず小さく呟く。
他人から見れば、ただの夜の一コマ。
でも私にとっては、何かが動き出す瞬間だった。
私の名前は 早川美咲。二十歳、どこにでもいる大学生だ。
いつも通りに過ごして、なんとなく笑って、たまに適当に泣いて。
「なんとなく」だけで生きている。
でも今日は、少しだけ違う。
「ごめん、遅くなった!」
駅前で待ち合わせたはずの友人から連絡が入ったのは十分前。
結局「今日はやっぱり無理そう」という追い打ちが来た。
スマホの通知を消し、私は仕方なく夜の繁華街を歩き始める。
不思議なものだ。
一人でいるはずなのに、寂しさを感じない。
「……あっ」
歩道に並ぶショーウィンドウの前で立ち止まった。
透明なガラスの向こうには、並んだ洋服と装飾品。
だけど目を奪われたのは、自分の姿だ。
肩まで伸びた髪は、夜の湿気にわずかに揺れている。
目元に残る幼さが嫌で、何度も鏡で化粧を練習した。
でも結局、今夜もそのままの私が映っている。
「あんた、何やってんの?」
頭の中で、もう一人の私が囁く。
私は何がしたくて、何を待っているのだろう?
繁華街は人で溢れている。
お揃いの制服を着た高校生、酔っぱらったサラリーマン、
恋人たちは手を繋いで歩き、誰もが“誰か”と一緒だ。
私が立ち止まると、まるで潮の流れのように人が私を避けていく。
でもそれが心地いい。
右手にスマホ、左手に小さなバッグ。
少しうつむきながら歩く。
自分がどこに向かっているのか、分からないまま。
「今夜くらい、ちゃんとしたいんだけどな」
そう言って、空を見上げる。
ビルの隙間から見える月は、完璧な円に近い。
「どうして夜は、こんなに綺麗なんだろう」
何気ない一言が、まるで答えのように響いた。
足が勝手に動き出す。
行き先も分からず、気まぐれに細い路地を曲がると、
さっきまでの人混みが嘘のように静かな道が現れた。
右手には古いカフェ、左手には洒落たバー。
遠くで音楽が聞こえる。
私はカフェのガラス越しに、一人で本を読んでいる女性を見つけた。
彼女は私と同じ年頃で、どこか落ち着いて見える。
「いいな、ああいうの」
自分をしっかり持っているような顔だ。
でも本当は違うのかもしれない。
私と同じように、答えを探しているのかもしれない。
ふと、視線を感じた。
少し先に、路地の影からこちらを覗く子猫がいる。
黒い毛並みの小さな猫。
誰にも見つからないように、でも誰かに気づいてほしいみたいに。
「私も同じだね」
小さく笑って、猫に近づく。
逃げるかと思ったら、猫は動かず私を見上げた。
「ここにいればいいよ」
そう言いたくなった。
自分の居場所を見つけられない私が、
誰かに居場所を与えようなんて、笑える話だ。
でも、なんだろう。
この猫を見ていたら、少しだけ勇気が出てきた。
スマホが震えた。
画面には友人からの通知。
『今度こそ、ちゃんと会おうね!』
私は小さく息を吐くと、夜空に目を向ける。
まだまだ都会の光は眩しいけれど、月は静かにそこにある。
歩道に戻ると、また人の流れに混ざっていく。
でもさっきまでとは違う。
自分の歩幅で、しっかり前に進んでいる。
何かが変わるわけじゃない。
けれど私の心は、少しだけ軽くなっていた。
「……帰ろう」
自分に言い聞かせて、振り返る。
路地の向こうにいた猫の姿は、もう見えない。
でもそれでいい。
きっとあの猫も、次の場所へと向かったのだろう。
私も同じだ。
これからどこへ行くのか、まだ分からない。
でも分からないままでいい。
そう思った瞬間、私の中の夜が少しだけ明けた気がした。
夜の街は今日も賑やかで、都会の光は強すぎる。
だけど、どこか遠くに必ず静かな場所がある。
それを探して、私はこれからも歩くのだろう。
一歩ずつ、私の足で。
『夜明け前のネオンブルー』
――終わり――
※作品は完全なフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係がありません。
今回の創作に使用したテクノロジー
AI画像生成
- ツール:Stable Diffusion WebUI AUTOMATIC1111
- 使用モデル:bluePencilXL_v700
- 加工ツール:Adobe Photoshop Express、Windowsフォト、PhotoScape X
AI小説作成
- ツール:ChatGPT
これらの最先端のAIツールを通じて、新しい形の創作表現に挑戦しています。
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