私は筆を振り上げる。
大きなキャンバスに弾け飛ぶ赤、青、黄色の塗料――私の描く「世界」が、今、広がり始める。
絵の具は床に滴り、裸足の足裏に鮮やかな彩りを残す。右足には青、左足には黄色。まるで私自身が絵画の一部になってしまったかのようだ。
この瞬間がたまらなく好きだ。
「カエデ、また夢中になってるね。」
工房の窓の外から声がする。振り返ると、幼馴染の拓海が手をひらひらと振っている。彼は私の作品に対する感想をいつも「カオスだ」と笑う。でも、そんな彼の目はいつもどこか羨ましげだ。
「いいでしょ、カオスの中にしかない美しさもあるんだよ。」
冗談めかして返しつつも、私は筆を止めることなく大きく弧を描く。工房の中は静かだ。外の陽光が窓から差し込み、木材の香りと古い絵の具の匂いが漂っている。
――私はカエデ、二十二歳。
絵を描くことが何よりも好きで、何よりも怖い。
数年前、私の描いた絵はコンテストで入選し、少しだけ名前が知られた。だが、それ以来何かが空っぽになってしまった気がする。期待に応えようとするほど、描くことが怖くなる。私の「個性」が失われるような気がして。
「この円……またか。」
ふと見つめたキャンバスには、無意識のうちに描いてしまった赤と黄色の大きな円。幼い頃、母が言った「太陽は円くて、世界を照らす」という言葉がふとよぎる。
「ねえ、拓海。」
「ん?」
「私の太陽って、ちゃんと輝いているのかな。」
拓海は少し驚いたように目を瞬かせ、ゆっくりと笑った。
「お前の太陽は爆発寸前に輝いてるよ。だから、ちゃんと照らせてる。」
その言葉に胸が詰まる。彼の言葉はまるで、絵筆の先に迷う私を見透かしているようだ。
工房にこもる日々が続いた。
私の描く絵は、ますます「カオス」になっていく。真っ赤な弧に青い飛沫、黄色の渦――しかしそれはどこか不完全で、何かを待っているように見えた。
ある日、拓海が私の工房に無理やり連れ出すようにやってきた。
「カエデ、ちょっと来い。」
「えっ、今描いてる途中なのに!」
「いいから!」
拓海は頑固だ。結局、工房を出て彼についていくことにした。
辿り着いたのは、街の中心で開かれているアートフェスティバル。
色とりどりの作品が並ぶ中で、私は思わず足を止める。幼い子供が、両手に絵の具をつけて大きなキャンバスに描いている。彼らの笑顔には一点の迷いもない。
「楽しそう……。」
呟いた私に、拓海が言った。
「だろ?お前の『カオス』も、ここで見せてやれよ。」
「え?」
「出せばいい。お前の本気の太陽を。」
その日、私は小さな決意を抱いた。
次の日、私は自分の作品をフェスティバルに出展することにした。迷いも、不安も、全てキャンバスに塗り込めるつもりで。
イベント当日、私の作品は巨大な真っ白なキャンバスに真っ赤な太陽と、そこから飛び散る無数の青と黄色の飛沫――まるで新しい生命が生まれる瞬間を描いたような作品だ。
最初は誰も足を止めてくれなかった。でも、一人の少女が言った。
「わあ、なんだか太陽が跳ねてるみたい!」
その言葉が、私の心を跳ねさせた。
次々と人々が足を止め、無邪気な笑顔で言う。「元気が出るね!」「爆発してるみたいだ!」
私の「太陽」が、輝き始めたのだ。
拓海が少し離れた場所でニヤリと笑っているのが見えた。
「ほらな、お前の太陽はちゃんと世界を照らすんだよ。」
数年後、私は今も絵を描き続けている。
私の作品は決して万人に理解されるものではない。でも、私の心が跳ねる限り、私の太陽は輝き続ける。
色とりどりの絵の具は私の足跡そのものだ。青、黄色、赤――私の「カオス」は世界を照らす。
筆を手に取るたび、私は思う。
「私は、私のままでいい。」
さあ、今日も描こう。
私の太陽が、どこまでも輝くように――。
<終わり>
※作品は完全なフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係がありません。
今回の創作に使用したテクノロジー
AI画像生成
- ツール:Stable Diffusion WebUI AUTOMATIC1111
- 使用モデル:bluePencilXL_v700
- 画像加工:Adobe Photoshop Express、PhotoScape X
AI小説作成
- ツール:ChatGPT
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